砂金を現金化する方法――「金」の価値を考える
私がよく経験することですが、川で採集した砂金を人に見せたときに、「それはいくらぐらいの金額になるんですか?」と尋ねられることが非常に多くあります。
私自身としては地学を専門としてきましたので、どこの川でどんな砂金が取れたのかという標本的な部分にもっとも価値を感じているところです。
とはいえ、川で採れる砂金が実際にどれくらいの金額や価値があるものなのかについては、みなさんの興味を持たれるところだと思います。
今回は、みなさんも気になる砂金の値段やその価値について考えていきましょう。
砂金を現金化する方法
そもそも、川で採った砂金というものはお金に換えることは可能なのでしょうか。
金はその貴金属としての価値が高いこともさることながら、融点が1064℃という比較的に溶かしやすくて整形しやすい金属であることから、長らく宝飾品として多く利用されてきたものだといえます。
そのため、金の買い取りをしている業者や企業はたくさん存在しています。
ただ、こと金の買い取りといった場合は、金の延べ棒や指輪・ネックレスなどの宝飾品としてすでに成形されているものがほとんどであるため、砂金そのものを買い取ってくれるところはごく少数というのが現状だといえます。
現在、砂金を現金化する場合にもっとも多く利用されているのはネットオークションでしょう。
Yahoo!オークションなどで出品されている砂金を見てみると、その産地と量によってまちまちですが、1ケースに数粒が入ったものがおおよそ5000円前後で売買されているようです。
この方法であれば現金化することもできる一方で、そのようにして人の手にわたった砂金が何かに使われているのかというと、市場に流通するというよりもそれらを集めて自分の手元に置いておきたいというコレクター的、あるいは標本的な扱いがほとんどだと考えられます。
また、一般的に金といえば、「金の延べ棒」や「金塊」「金地金」(きんじがね)をイメージすると思います。
実際、私が砂金を集めていることを人に話すと、「いずれは集めた砂金を溶かして金の延べ棒にするんですか?」と尋ねられることも多いです。
この砂金を集めてひとつの金塊にすることも非常にロマンのある話ですが、実は、金をそのような形に成形してしまうと、すでに流通している市場価格での買い取り価格になるため、砂金の価値としては溶かす前の状態の方が高いという傾向があるようです。
いずれにしても、現在は金と兌換紙幣の交換を前提とした金本位制の時代ではなく、金の値段も変動するものですので、砂金をすぐに現金化することも容易ではない状況だといえるでしょう。
砂金の金銭的な価値
このように、砂金の金銭的な値段というものはすぐに分かるわけではないのですが、かつて私が友人の灘高校の野村敏郎先生とともに出演したテレビ番組でその金額を算定してもらったことがあります。
今から15年以上前の話になりますが、野村先生が高校生を相手に加古川で砂金を採集する実習教室の様子をよみうりテレビが取材しに来たことがあり、私もそのときのお手伝いとしてそこに参加していました。
野村先生の指導の下、番組の出演者が加古川の基盤岩の底の土砂を集めてそれをパンニング皿で選別すると、無事に砂金を採ることができました。
このときはそれほど多くの砂金が出たわけではありませんでしたが、その砂金がどれほどの価値があるものなのかについてテレビ局が独自に東京の業者に鑑定を依頼したわけです。
その結果、約1~2mm程度の砂金が現在の買取価格として約10円という査定金額だったようです。
この金額を高いと感じるのか、それとも安いと感じるのかについては受け取る人にもよりますが、砂金採りを趣味として楽しむのであればその程度の価値のあるものとして番組では伝えられていました。
ただ、現在、これを仕事や商売としてやろうと考えるのであれば、労力に対してまったく見合っていないということになります。
こちらの「金のなりたち――マグマと熱鉱床とのつながり」のページでも取り上げたように、金山で金を採掘するというレベルでは金の粒子が含まれている鉱石1トンあたりにつき3gの金が含まれているかどうかがコストに対して見合う水準になるといわれています。
当然、このコストには単に鉱石を採掘すれば良いのではなく、そもそも金山の開発に始まり、採掘した鉱石の精錬と成形、さらにそれを金の市場の流通に乗せるまでのしくみ作りまでが含まれていますので、商売として行うためにはかなり大がかりな施設・設備が必要になるといえるでしょう。
砂金を現金化することは誰しも考えつくことですが、それを実際の商売レベルにまで引き上げるためには安定的に金を産出できる場所を見つけることに加え、その開発や精錬のための大規模な初期投資が必要ということになります。
砂金からものの価値を考える
今回は、砂金を現金化する方法や砂金の価値などのトピックについてご紹介してきました。
趣味に関しては、「趣味と実益」という言葉をよく聞きます。
砂金採りは趣味としては非常に奥深いものがあることは間違いありませんが、実際の利益とコストの観点で考えるとなかなか難しいものです。
ただ、私自身としては、砂金を現金化することやそれを取り巻く市場価値などについて考えてみることが、現代の社会における貨幣のしくみやものの価値のあらわしかたというものを改めて振り返る際のきっかけになると考えています。
現在の私たちが知る「お金」というものは、管理通貨制度の下で発行されている不換紙幣で、それはいわば社会における流通物やサービスなどの交換に対する信用を形にしたものだといえます。
その一方で、金は単なる鉱物という以上に、人類の歴史とともに貴金属としての価値を保持し続け、市場における財・サービスなどの価値を常に担保し続けてきたひとつの媒体としての役割も果たしてきました。
今のところ、単なる現行の貨幣を求めるのであれば、砂金はすぐにそれと交換できるような価値はもっていないのかもしれません。
砂金採りは自己満足の趣味に過ぎないといわれればそれまでですが、物事の価値のあり方を考える際のもうひとつの尺度になるのではないかと個人的には感じています。