砂金の調査記録(9)――奈良県五條市の砂金
日本においてどの川で砂金が採れるのかという本研究所のフィールドワークの調査報告です。
今回は、奈良県五條市の砂金の産出状況に関する調査を行いました。
「三波川変成帯」と重鉱物の関係
当研究所では、これまでに砂金の採集できるポイントとして、鉄や銅といった重鉱物を産出する「鉱山」がひとつの手がかりとなることをお伝えしています。
具体例としては徳島県の吉野川流域や愛媛県の「マイントピア別子」(旧別子銅山)があり、その詳細については砂金の調査記録(4)――徳島県吉野川流域の砂金を探ると「マイントピア別子」で重鉱物の歴史を知るの各ページを参照して頂ければと思います。
さて、ここに示した四国地方において重鉱物が産出される地質的特徴として、それが「三波川変成帯」に属していることが挙げられます。
同変成帯は中生代ジュラ紀末期から中生代白亜紀初期にかけて「付加体」として形成された地質構造であり、高温低圧にて形成される結晶片岩や「層状含銅硫化鉄鉱床」(そうじょうがんどうりゅうかてっこうしょう/キースラーガ―)とよばれる鉱床が多く含まれることで知られています。
この三波川変成帯は日本列島を東西に貫く「中央構造線」の南方に位置する変成岩帯であり、西は九州地方から四国地方を通り、はるか東側の長野県付近にまで広がっています。
そのため、砂金を採集する場合にはこの地質的特徴を示す場所を見つけることがひとつの重要な手がかりになるといえます。
また、同変成帯の存在に加え、そこに形成された鉱山の関係に注目すれば砂金が採集できるポイントもおのずと明らかになるとの推察が成り立つわけです。
奈良県五條市の砂金
当研究所ではすでに愛媛県や徳島県における三波川変成帯の地質構造に着目し、砂金の採集ポイントをお伝えしてきました。
上記の仮説にしたがえば、同変成帯の東側にあたる和歌山県北部や奈良県の中央部を東西に流れる「紀ノ川」にも砂金が流れ込んでいるのではないかと考えることができます。
今回、当研究所ではその仮説を検証するため、紀ノ川上流の奈良県五條市における砂金の産出状況に関する調査を行いました。
奈良県五條市は紀ノ川の上流に位置しており、その南方には「吉野川」という名称の河川が紀ノ川に向かって流れています。
具体的には、以下に示す「比売火懸(ヒメカケ)の森」の北東方向に位置する河川敷となります。
この河川の岩石を観察すると、緑色の結晶片岩が広がっていることが見て取れます。
紀ノ川上流(吉野川)の結晶片岩
また、この河川敷には数多くの基盤岩が存在していることに加え、その割れ目が河川の流れに対して直角に入っている状況が観察されます。
基盤岩の割れ目(クラック)の方向
そのため、それら基盤岩の割れ目の下部には上流から流されてきた砂金が滞留している可能性が考えられます。
早速、これらの基盤岩に対して盤たたきを行い土砂を洗浄してみると以下のような約1mmサイズの砂金を中心として大小さまざまな大きさの砂金を採集することができました。
基盤岩から採集した砂金
さらに、この河川周辺の砂金には水銀に覆われているような白色~銀色をした砂金(アマルガム)や鉄さびが付着したようなやや赤茶けた砂金が見られます。
水銀に覆われた砂金(上段)/鉄さびが付着した砂金(下段)
私自身も他の河川で砂金を採集している時に上記のような水銀に覆われた砂金を見つけたことが何度かあります。
金と水銀は非常に結合しやすい性質があり、事実、かつての日本では河川で砂金を採集する際に河川に水銀を流して砂金と結合させた後、その水銀を含む砂金を収集する方法が用られていた歴史も存在しています。
地質構造と砂金
今回の調査の結果、当初の仮説の通り、紀ノ川上流の吉野川において砂金を採集することができました。
この結果をふまえると、吉野川の下流にあたる和歌山県の紀ノ川においても同様の基盤岩が見られるポイントであれば砂金が採集できるのではないかと考えられます。
紀ノ川上流の吉野川の砂金の特徴としてはさまざまな大きさが見られることに加え、通常の砂金とは異なった水銀に覆われたものや鉄さびが付着したものなど砂金のバリエーションを観察できることも挙げられます。
砂金はそれが産出される地質的特徴や構造、重鉱物の存在とは非常に深い関係がありますので、今回の調査はそれらを手がかりとして採集可能なポイントを探ることのできた好例といえるでしょう。