砂金のありかを探る――私的フィールドワーク記録

日本の歴史において、川で砂金が採れるという事実は古い時代からよく知られていました。

川には水が流れており、この水は私たち人間にとって生活水や食糧生産といった生活の基盤を物理的な意味で支えるものですので、古来からこのような川には人びとの思いや願いというものと深いつながりを見て取ることができます。

今回は、私が砂金採りを通してこれらのことを実感したフィールドワークのひとつの例をご紹介しましょう。

「鴨川」の砂金

すでにお伝えしているように、川で砂金を見つけるためには川面に基盤岩が顔を出している場所がポイントとなります。

この仮説を検証するために私が最初に砂金掘りにチャレンジしたのは、兵庫県加東市にある「鴨川」という場所でした。

ここには住吉神社(兵庫県加東市)の目の前に川が流れており、以下の写真のような川の表面に岩盤を見つけることができます。




鴨川とその基盤岩

金は比重が大きいために川の底の岩盤に沈み込んで溜まって成長する性質があり、そこの土砂を集めてパンニングをすれば砂金が採れるのではないかと考えたわけです。

その結果、私たちの仮説のとおり、非常に小さいものでしたが、砂金を手にすることができたのです。

以上のことを手がかりとして、基盤岩が出ている場所を見つけてはそこに出かけ、砂金が出るかどうかを検証するという私の10年以上におよぶフィールドワークの旅が始まったわけです。

「明石川」の砂金

また、私がこれまで調査した川の中に、住吉神社(兵庫県神戸市西区)の目の前にある「明石川」(あかしがわ)という場所があります。

以下の写真を見て頂ければ分かるとおり、この川の周辺にも基盤岩がいくつか存在しており、この場所でも砂金が採れるのではないかと考えて実際に砂金の採集を試みました。






住吉神社と明石川の基盤岩

この基盤岩には、途中、白っぽい筋が横に入っているのを見て取ることができますが、これは石英です。

石英脈には金の粒子が入っていることが期待できますので、このポイントでも砂金が採れるのではないかと考え、この岩盤の土砂を集めてそれを選り分ける作業を行ったわけです。

その結果としては、当初の読み通り、量は少ないものの、砂金が採れることが判明しました。

以上のようないくつかのフィールドワークを通して、川の表面に出ている基盤岩が砂金を採るときのポイントになるという確信を深めていったわけです。

「住吉神社」とのつながり

すでにお気づきかもしれませんが、どちらの場所も「住吉神社」という場所が関連するところで砂金を採集しています。

この住吉神社は日本全国に数多く点在する神社の名前で、その由来は住吉三神(海の神、航海の神、和歌の紙)が祀られているものとされており、水という要素と無関係ではないといえます。

このことから、もしかするとこのような神社の場所やその土地に住む人びとがそこに込めた地名なども砂金のありかを探るためのひとつの手がかりになるのではないかと考えた時期がありました。

実際、住吉神社を地図で調べてみると川や水に関連した場所に位置していることが多く見受けられ、人びとの生活と切り離すことのできない川や水といったものを守護する役割を担っていたのかもしれません。

もちろん、これは単なる偶然のことかもしれませんし、私自身のささやかな仮説にしか過ぎません。

しかし、地学を教えている私からすると当たり前のことですが、現在の私たちの眼の前に広がっている土地や川の流れなどはその長い歴史においてさまざまに変化してきた結果としてそこにあるものですので、砂金のありかを探る際にはかつてその土地や河川がどのような姿をしているのかを把握することは必要不可欠だといえます。

その際、土地の地名やそこに伝わっている古来からの伝承・歴史に注目するという文化人類学的なアプローチをしてみることも、地学的な観点とはまた違った見方や手がかりを与えてくれる方法のひとつになってくるわけです。

以上のように、砂金を採集することを目的としながらも、地図を見ながらその地名の由来や当時の人びとがどのようなことを考えていたのかに思いを馳せることも、私の楽しみのひとつとなっています。