砂金の調査記録(3)――岡山県東部の河川をめぐる
日本においてどの川で砂金が採れるのかという本研究所のフィールドワークの調査報告です。
私自身がこれまでの砂金調査を通じて実感していることとして、兵庫県には砂金が出るところは数多くあるのですが、岡山県から西側の地域に入るとそれが極端に少なくなってしまうということが挙げられます。
その理由のひとつとしては岩体の違いというものがあり、兵庫県では砂金の産出と深いつながりのある流紋岩が数多く分布しているのに対し、岡山県から西側の地域では主に花崗岩で構成されていることが影響していると考えられます。
ただ、これは逆にいえば、岡山県でも流紋岩が含まれている岩体であれば砂金を採れる可能性があることを示しており、兵庫県に接している岡山県の東部地域には流紋岩を含む岩体が分布しています。
そのため、今回の調査では岡山県の東側の地域の河川をいくつかめぐり、そこで砂金が採れるのかどうかの検証を行いました。
備前市伊里川の砂金――「閑谷学校」周辺の河川を探る
今回、私が目をつけたのは、兵庫県から岡山県に入ってすぐのところにある備前市(びぜんし)です。
備前市には北部地域を流れる八塔寺川(はっとうじがわ)と、南部地域を流れている伊里川(いりがわ)の2つの川が存在しています。
今回の調査では兵庫県に近い伊里川から調査を行いました。
伊里川の上流には江戸時代に開校された庶民学校である「閑谷学校」(しずたにがっこう)があり、現在ではその観光名所として有名なところです。
その下流側の河川を調べてみると、以下のような基盤岩が露出している場所を見つけることができました。
伊里川の基盤岩
早速、この基盤岩に含まれている水草の土砂を収集し、それをパンニングしてみました。
すると、1mm程度の2粒の砂金を採集することができました。
伊里川で採集された砂金
次に、砂金は上流にさかのぼって調べることで、どこから供給がされているのかについての見当をつけることができます。
そのため、ここから閑谷学校のある上流域にさかのぼり、その近辺での砂金採集を試みました。
閑谷学校のすぐ脇の川には、以下のような基盤岩の場所を見つけることができました。
閑谷学校近辺の基盤岩
結論からいえば、この場所で何度か土砂を集めてパンニングをしてみましたが、砂金を採集することはできませんでした。
このことから、おそらく閑谷学校の下流域で見つけた砂金は、閑谷学校の上流域とは別のルートから供給がされているのではないかという予測を立てることができます。
ただ、現在、閑谷学校の周囲にあるそれぞれの河川にはダムが建造されていることから、今後、そこから下流側に向かって砂金が供給されることはないと考えられます。
八塔寺川流域の砂金を探る
また、今回は、ひとつ谷を越えた八塔寺川にまで足を伸ばし、砂金が採れるかどうかについての調査を行いました。
八塔寺川をさかのぼりながら砂金が採れるポイントを探っていくと、以下のようないくつか基盤岩が出ているところを見つけることができました。
八塔寺川の基盤岩
ここでも同様に基盤岩の上の土砂を集めてパンニングを行いました。
しかし、何回かパンニングの作業を行ってみても、結局、砂金を見つけることはできませんでした。
伊里川と八塔寺川は谷をひとつ越えただけの違いしかないのですが、砂金が出るかどうかについては明確に分かれています。
もし、小さな粒の砂金を見つけることができれば、それは砂金が上流から供給されている河川であることを示しています。
逆に、砂金が採集できない場合は、その河川には砂金の供給が行われていないことになります。
砂金を見つける作業自体は基盤岩の出ているポイントさえ見つければすぐにできますので、その河川から砂金が採れるかどうかについてはすぐに判定することができるのです。
砂金が見つけられない理由
今回の調査では、岡山県の東部地域で砂金が採集できるのかどうかについての検証を行いました。
その結果、東部では数少ないながらも砂金を採れる場所を見つけることができました。
その一方、同じ河川であってもその場所が少し変わってしまうだけで砂金を見つけられないという結果も得られました。
今回、砂金を採集したポイントは、その供給があれば確実に見つけられる場所を検証しています。
そのため、そのポイントで砂金が出ないということは、そもそも砂金の供給がないということを示していると考えられるのです。
以上のように、砂金の有無の調査を行う際にはどのポイントを探るべきかという観察眼が重要になるといえるでしょう。