岡山県の日南石灰岩の産地を訪れる
地学における堆積岩の項目では「石灰岩」という岩石が取り上げられます。
この石灰岩は炭酸カルシウムが多く含まれており、かつての海洋生物の殻が堆積した生物起源のものと水中における炭酸カルシウムの成分が沈殿してできたものとに分けられ、特に前者の生物起源の石灰岩には化石が含まれていることが多いといえます。
今回は、岡山県でも特に有名な日南(ひな)石灰岩の産地とそこで観察される化石についてご紹介していきます。
岡山県井原市芳井町の日南石灰岩
岡山県井原市芳井町上鴫という地域は石灰岩の産地としてよく知られており、特に日南(ひな)石灰岩と呼ばれています。
具体的な場所としては、「仙骨峡 蛇の穴」という鍾乳洞の北西部に位置する山の中となります。
日南石灰岩で構成された山地
写真に見えている山と周辺の岩石はすべて石灰岩でできており、そこには多量の化石が含まれています。
この石灰岩はそこに含まれているフズリナなどの化石から、当初は古生代石炭紀のものと推定されていましたが、さらに検証を進めると三葉虫の化石が含まれていることが分かり、そこからさらに古い古生代デボン紀の時代の石灰岩帯であると決定づけられた日本の地学の歴史においても非常に重要な意味を持つ場所なのです。
この日南石灰岩について動画で説明をしていますので、ご覧ください。
「日南石灰岩」の地学的意義
(画像をクリックで動画を再生)
なお、この石灰岩は鉱業で利用されることが多い岩石で、特に製鉄をする上ではなくてはならない素材だといえます。
製鉄を行う場合には鉄鉱石を溶かして「製鉄スラグ」を作るのですが、鉄鉱石にはもともとシリカやアルミナといった不純物が含まれているため、より純度の高い鉄を精錬するにはそれらを分離する必要があります。
その際、この製鉄スラグに石灰岩を加えることでそれに不純物を結合させて分離し、より純度の高い製鉄スラグを作り出すことができるのです。
この地域の日南石灰岩は古くからJFEミネラル株式会社が採掘を手がけており、以下の写真に示すように産地全体が大規模に削り取られている様子を伺うことができます。
日南石灰岩の採掘場
日南石灰岩は地学的にも重要な場所であるとともに、日本の鉱業を支えている場所だといえるでしょう。
石灰岩における化石採集のポイント
この地域の日南石灰岩は山全体が石灰岩で構成されているため、当然ながら付近に見られる岩石はすべて石灰岩だといえます。
日南石灰岩の露頭と周辺に遍在する石灰岩
この石灰岩の中にはかつてのフズリナやウミユリ、三葉虫などの生物の化石が含まれており、特に風化して浸食された石灰岩の表面には化石の形がはっきりと浮き出てくるものを見つけることができます。
通常、岩石の中に含まれている化石を見つける場合にはそれが含まれている岩石をハンマーで砕く必要があるのですが、この地域の日南石灰岩の場合にはそのようなやり方をせずともそれらの化石を発見することができるのです。
この日南石灰岩から化石を発見する方法について動画で説明をしていますので、ご覧ください。
石灰岩に含まれる化石を発見する
(画像をクリックで動画を再生)
動画の中で触れられているウミユリの化石については以下のような模様のはっきりしたものを見つけることができます。
日南石灰岩に含まれるウミユリの化石の縦断面
以上のように、この地域の石灰岩帯にはこのような化石を比較的容易に発見することができる知る人ぞ知る場所だといえます。
日南石灰岩の特徴
岡山県の日南石灰岩はこの地域一帯の山中だけに見られるもので、その周囲の岩体とは性質を異にしています。
この地域の石灰岩はかつて海山の周囲に存在していたサンゴ礁が土砂の中に取り込まれたもので、それが海洋プレートの動きによって大陸側に積み重なって押し込まれていき、現在の山の高さまで至ったものとして考えることができます。
私たちの眼の前に見えているこの日南石灰岩は、今から3億年もの昔の古生代の海山の周囲に存在していたものであり、それを現在の私たちが採掘して利用しているというわけです。