プルームテクトニクス――プレートを動かす原動力

地学では地球の活動について考える際、かならず「プレートテクトニクス」が取り上げられます。

地球上の大陸は動いているというアルフレッド・ウェゲナーの「大陸移動説」を証明したことで有名となった学説で、今となってはこの考え方に異論を唱える人はほとんどいないといっていいでしょう。

最近では、さらにそのプレートテクトニクスを支える「プルームテクトニクス」という理論も提唱されています。

今回は、このプルームテクトニクスについて考えていくことにしましょう。

大陸移動説とプレートテクトニクス

地学においてプレートテクトニクスという学説を扱う際には、その発端となったアルフレッド・ウェゲナーが提唱した「大陸移動説」に言及することが多いといえます。

この大陸移動説からプレートテクトニクスに至るまでの概要については、こちらの「地球上を移動する大地――プレートテクトニクス」のページで解説していますので、そちらをあわせて参照してください。

ウェゲナーの大陸移動説は、もともと地球上には「パンゲア」というひとつの巨大な大陸が存在し、それが時代を経て徐々に移動して現在の大陸の形になったということを主張するものでした。


地球上の大陸は「パンゲア超大陸」から分裂した

ただ、当時、この学説は突拍子もないものとしてほとんど相手にされず、ウェゲナーの死後になってそれが正しかったことが証明されたという経緯があります。

ウェゲナーは地球上の異なる大陸間に同一の時代の地層や化石が分布していることを根拠として大陸移動説を証明しようとしたのですが、その事実は認められたものの、大陸を動かす原動力の存在を示すことができなかったため、この学説は歴史上から一度姿を消すことになったのです。

ウェゲナー亡き後、この大陸移動の原動力を説明しうる学説として登場したのが、プレートテクトニクスという考え方です。

これは大陸地殻の下層には「プレート」(=マントル上部のリソスフェア)とよばれる岩盤が存在しており、それが下部のマントルの対流によって動かされることで大陸が移動するということを説明する理論です。

このプレートテクトニクスの考え方によって、ウェゲナーが証明できなかった大陸を移動させるための原動力の存在が指摘されたわけです。

さて、ここまでが大陸移動説とプレートテクトニクスの概要となっており、私が地学の授業においてこの単元を解説する際にもこの一連の流れを説明しています。

しかし、以上までの流れをたどって頂ければ分かるように、実はこの話は途中で終わっているともいえます。

というのも、プレートテクトニクスにおいてプレートの動きが大陸を動かすという部分についてはさまざまな観測結果から事実として確認されているものの、ではそのプレートを実際に動かしているマントルがどういうメカニズムで対流しているのかについては何ら説明がなされていないからです。

このマントルの対流の動きを明らかにするための理論が、今回取り上げる「プルームテクトニクス」なのです。

プルームテクトニクス

プルームテクトニクスにおけるプルーム(plume)は、マントル内部の大規模な対流運動のことを指す言葉です。

もともとは「羽」や「煙・雲の柱」などを意味する言葉ですが、上に向かって浮きあがるものや立ち上っていくものをイメージして頂ければ良いかと思います。

以下の図は、プルームテクトニクスを模式的に示したものです。

地球は中心部に近づくにつれて温度が上昇していき、上部マントルと下部マントルの境界付近で約1600K、外核と下部マントルの周辺で4000K、地球の中心部である内核では約6000Kにも達します。

マントルは主にかんらん岩によって構成されていますが、その融点はおよそ1000℃で、マントル下部のアセノスフェアとよばれる高温・高圧下の部分ではマントルが部分的に溶融しています。

プルームテクトニクスでは、「ホットプルーム」と「コールドプルーム」という2種類の流れがきっかけとなってマントルの対流を生み出していると考えられています。

ホットプルームは、外核周辺に高温の状態で存在するマントルが上部に向かって上昇する流れを指しています。

これとは逆に、コールドプルームは、下部マントルから外核に向かって下降していく流れのことをあらわしています。

大陸プレートと衝突した海洋プレートは海溝から深発地震面に沿ってマントルの下部に沈み込んでいき、深さ約660km付近にほぼ水平に滞留して「スラブ」という冷たい岩石の塊を形成します。

この深さのスラブは、「相転移」(そうてんい)という物質の状態が変化することで密度の増加と粘性の低下が生じてさらに深部に下降する流れを形成していきます。

このように、マントル内部のホットプルームとコールドプルームの相互作用によって、マントルに流れが生み出されていくというわけです。

それで、なぜこのようなマントルの対流が生じるのかというと、結局のところ地球が形成されたときの熱がいまだに蓄積しており、それが現在に至っても冷え切っていないことが挙げられます。

こちらの「地質時代――地球の生命の進化と地層の形成」のページでも説明しているように、46億年前に誕生したばかりの地球の表面上には高温のマグマの海が広がっていました。

その後、地球上ではマグマが冷えていくとそこから大気と海が形成されていきますが、地球内部ではいまだにそのときの熱がこもっている状態だと考えられるわけです。

この地球内部の熱がマントルの対流を生み出し、それによってプレートが動かされ、その結果として大陸が動くというメカニズムにつながっていきます。

プルームテクトニクスは、まさにプレートテクトニクスが説明できなかった部分を明らかにするための学説ということができるでしょう。

新事実が盛り込まれる地学

現在の地学では当たり前のものとして取り扱われているプレートテクトニクスは、1960年代の後半以降になって日本に持ち込まれました。

実はこの学説が日本に入ってきた当初、それが本当に正しい考え方なのかどうかについて、肯定派と否定派に分かれて大きな論争が巻き起こされていたのです。

その当時、私は大学生でしたが、日本地質学会において学者同士が派閥を形成しながらプレートテクトニクスの是非について議論(というかお互いの誹謗中傷の応酬)をしていたことを今でもよく覚えています。

しかし、それから時は流れて、今やこのプレートテクトニクスについて疑問をもつ人はほとんどいなくなっているどころか、プルームテクトニクスのように新たな事実や考え方が広く受け入れられるような時代になりました。

特に、地学の教科書には地学の教師として教えている私自身が驚くほどに、新しく発見された事実や考え方が次々と盛り込まれるようになっています。

たとえば、地質時代の項目で取り上げられる「バージェス動物群」などは、ちょうど私の大学時代にその化石が出始めたところで、本当に一部の専門家しか知りえないようなものだったのです。

私自身も大学の教授からバージェス動物群の化石の復元図を見せられたとき、その生物としての形態のデタラメさから、「こんな訳の分からない生物が本当にいるのか?」とその存在自体に疑問を抱いたものですが、それが現在の地学の教科書では普通に掲載されているのですから隔世の感を禁じ得ないところです。

ともあれ、このような新しい事実や学説が発見されるたびに私たちの見える世界は広がっていくことにつながりますので、こういうところにも地学を勉強する楽しみがあるといえるでしょう。

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