地球の質量を考える――重さと万有引力の法則

前項では、地球の大きさを計算する方法を確認してみました。

大きさとくれば次は「重さ」になるので、今回は地球の質量を求める方法を一緒に考えてみることにしましょう。

通常、私たちが質量というもの、すなわち重さを計測する場合には量りなどの測定器を使いますが、地球という大きすぎるものに対してはどのようにすれば重さを測ることができるのでしょうか。

まさか宇宙空間に測定器を用意して地球の重さを測るわけにもいきませんので、ここでは数学と物理学の力を借りることになります。

内容がやや高度になる部分もありますが、大切なのは地学的なものの考え方ですので、どんな方法で考えるのかという大まかな理解だけで問題ありません。

物体の重さとは何か?

みなさんもニュートンの「万有引力の法則」というものを一度はどこかで聞いたことがあると思います。

ニュートンの万有引力の法則については、彼が木からりんごが落ちるのを見たことがきっかけでその着想を得たというとても有名な逸話があります。

この万有引力の法則を簡単に説明すれば、物体と物体はお互いに引き合う性質があり、物体の質量が大きければ大きいほどその力も強くなるというものです。

りんごが木から落ちたという話を万有引力の法則で説明すれば、ニュートンはそれを単に「りんごが木から落ちた現象」と見たのではなく、りんごと地球がお互いに引っ張りあった結果としてりんごが落ちたという風に見たわけです。

この万有引力の考え方にしたがえば、地球上の物質の重さを考える場合には、「物体同士が引き合う力」という要素がそこに関係してくることになります。

一般に、ある物体の重量というものは、以下の式で表現することができます。

ある物体の「重量」(W)は、その物体の「質量」(m)に「重力加速度」(g)をかけあわせたものとして捉えることができます。

この重力加速度とは物体を自由落下させたときに1秒あたりに進む距離(≒スピード)の増加量をあらわしており、たとえば鉄球を落としたとすると、鉄球を手から離したときの速度と地面に落ちる直前の速度とでは後者の方がスピードが速くなります。

地球上における重力加速度は9.8(m/s²)という一定の値になっていて、これは鉄球を落としてから1秒ごとに9.8mずつ距離(スピード)が増えていくということをあらわしています。

鉄球が地面に落ちてしまえば落下は止まりますのでそこで鉄球は動かなくなりますが、その地面に傾斜でもあれば鉄球はさらに低いところへ向かって落ちていきます。

つまり、地球上のあらゆる物質にはこのような重力加速度が常にかかっていると考えられるわけです。

この重力加速度の値は一定ですので、この式は「ある物体の重量(W)はその質量(m)に比例する」というある意味当たり前のことを言っているに過ぎません。

ただし、ここで重力加速度(g)の値が変化すると、物体の重量(W)も変化してしまいます。

たとえば月の重力は地球の1/6ですので、重力加速度は1.6(m/s²)となり、それにともなって同じ物体の重量であっても月では地球上のそれよりも軽くなるということになるのです。

万有引力の法則

では次に、万有引力の法則を説明していきます。

先にも説明しましたが、万有引力の法則とは2つの物体の間で引き合う力の大きさをあらわしたものです。

ある2つの物体間にはたらく万有引力は、物体の質量が大きければ大きいほどその力が大きくなり、2つの物体間の距離の2乗に反比例するという法則が成り立ちます。

この性質をまとめた万有引力の法則は、以下の式であらわすことができます。

ニュートンは2つの物体の質量と距離以外に万有引力定数(G)を置くことによって、あらゆる物体にはお互いに引き合う力があるという万有引力の法則を作りました。

ただ、ニュートンはこの万有引力定数を仮定することで万有引力の法則を作ったものの、当時、その具体的な数値を求めることはできず、後に物理学者のキャヴェンディッシュが行った実験によって、6.67 × 10-11(N・m2/kg2)というとても小さな値であることが判明したのです。

さて、ここに挙げた「物体の重量の式」と「万有引力の法則」の2つの公式を使うことによって地球のおおよその質量を求めることができます。

地球の質量の求め方

いよいよ万有引力の法則を用いて地球の質量を求めるわけですが、ここで地球上のある物体の重さと地球というものの重さを比較する場合、片方の地球の大きさがあまりにも大きいために、地球上の物体の要素については無視することができます。

そのため、地球上にかかっている物体の力というものはほとんど万有引力の法則、つまり「重さ」をそこにはたらく「力」とほぼ同じものとしてみなすことができるため、「W = F」という式を考えることができます。

この「W」と「F」にそれぞれの式を代入すると、以下の式を得ることができます。

では、ここにそれぞれの記号に具体的な数値を代入していきましょう。

重力加速度(g)は9.8(m/s2)、地球の半径(r)は6400km(=6.4 × 103km)ですが、あとで単位の計算も入ってきてそれをやりやすくするためにメートルに変換しておくと「6.4 × 106(m)」になります。

万有引力定数(G)は、6.67 × 10-11(N・m2/kg2)ですが、単位のN(ニュートン)は「kg・m/s2」に置き換えられるので、6.67 × 10-11(kg・m/s2・m2/kg2)となり、この単位の中をさらに計算すると結果的に6.67 × 10-11(m3/kg・s2)が得られます。

これら3つの値を単位込みで計算すると、以下のような式の変形になっていきます。

都合の良いことに、代入する各数値に付随している単位もこの式に入れて計算すると、結果として「kg」のみが残ります。

以上の計算の結果、地球のおおよその重量は6.0 × 1024(kg)という数値を導き出すことができるのです。

なお、このキログラム(kg)をトン(t)に変換すると、ゼロの数の24乗が3つ減って21乗になり、6,000,000,000,000,000,000,000(トン)、読み方は60垓(がい)トンになります。

数字が大きすぎてどれくらいの重さなのかがよく分かりませんが、以上の手順によって地球の質量を計算することができるのです。

地球の質量が分かれば何が分かるのか?

さて、以上までで地球のおおよその質量を求めることができましたが、このように地球の質量を考えることにどのようなメリットや意義があるのでしょうか。

実は、地球の質量が分かると、以上までで用いた万有引力の法則を利用することにより、たとえば月までの距離が分かれば月の質量を計算で算出することができるようになるのです。

また、月だけでなく、太陽までの距離を知ることによってその質量が分かったり、すべて地球を単位とした相対的な重さというものを導き出したりすることができます。

さらに、太陽だけでなく他の恒星までの距離が分かれば、その恒星の質量を算出することができるというメリットが出てくるのです。

この恒星までの距離をどのようにして出すのかというと、これは別の機会に譲りますが、地球から見たその恒星の明るさ(≒光の波長)で見当をつけることができるのです。

今回は、地球の重さを計算で出しましたが、このような数学や物理学の考え方を駆使して他の天体の質量までにも応用できるのが地学のひとつの醍醐味だといえるでしょう。