拡大する宇宙――観測技術の進歩と世界の広がり

前項では、恒星としての太陽の特徴を知ることによって、宇宙に数多く存在する恒星の進化が分かってきたことについて確認をしてきました。

そこでも少し触れたように、地球の周囲にある宇宙という世界は私たちの想像をはるかに超えるほどに広い空間を形成していて、さらにその宇宙はこの世に誕生してから今でも物理的に拡大しているのです。

今回は、宇宙がどのような広がりのある空間で構成されているのかについて考えていくことにしましょう。

観測技術の発達とともに拡大してきた宇宙

地球の周りには宇宙という空間が広がっていますが、この宇宙という世界は2つの意味で拡大してきました。

ひとつは望遠鏡をはじめとする観測技術が発展することによって、これまで分からなかった宇宙のより詳細な姿が私たちに見えるようになってきたという意味で拡大していっています。

もうひとつは、この宇宙が誕生してからその空間そのものが現在も膨張しているという物理的な意味での拡大です。

この2つのことは密接につながっていて、そもそも物理的な意味で宇宙が広がっているという事実を知るためには、それを観測する私たちの技術的進歩が必要不可欠となります。

もともと、私たち人間が見えていた宇宙という世界はとても狭いものでした。

たとえば、私たちの太陽系が含まれる天の川銀河の250万光年先には有名な「アンドロメダ銀河」というものがありますが、観測技術が未発達な時代にはその銀河が私たちの銀河の内側にあるものなのか、それとも外側にあるものなのかという判別がつきませんでした。

しかし、天体の観測技術が発達して光の波長を詳しく分析できるようになったことで、アンドロメダ銀河が私たちの銀河の外側にあるものということが分かるようになってきたのです。

この天体の観測技術の進歩については「電波望遠鏡」の存在が大きく寄与しており、これによってこれまで私たちの目には光(可視光線)でしか見えなかった宇宙の姿がより詳細に観測できるようになってきたわけです。

天体の観測に必要な望遠鏡といえば、私たちはいわゆる「天体望遠鏡」というものを想像しますが、宇宙空間に存在している無数の恒星のうち、その光がはっきりと見えるものは私たちから比較的近い部分にあるものに限られてしまいます。

ここで、私たちが目にしている光というものは、実は電波と同じ「電磁波」というものに含まれており、その波長の違いがあるだけで両者は本質的には同じものです。

その電磁波のうち、私たちが目にすることのできる光は特に「可視光線」とよばれており、その波長の範囲の中でのみ私たちは物体の姿を見る=識別ができるわけです。

私たちがよく知る天体望遠鏡は光学式望遠鏡ともいわれていて、主に可視光線の範囲の光を私たちの肉眼で見るタイプの望遠鏡です。

光学式の望遠鏡で遠くのものを見るためには光を集めて反射する鏡を大きくしていくことが求められますが、当然ながらそれにも物理的な限界というものも存在しますし、可視光線の範囲を外れた電波などの電磁波は観測できないために、たとえそこに何かが存在していたとしても私たちには見えない、すなわち観測できないということになるわけです。

そこで、可視光線の範囲の外にある電波を観測できれば宇宙から届くさまざまな存在が見えることになるわけで、それを観測するのがまさに電波望遠鏡なのです。

実際、宇宙からは私たちの目には見えないさまざまな電磁波が降り注いでおり、それを電波望遠鏡を使って把握して分析する「電波天文学」という学問領域が発達することによって、これまで見えなかった恒星の姿や宇宙の構造、特に銀河の形が渦巻きの形になっていることなどが明らかになってきたのです。

宇宙の誕生から離れ続ける銀河

さて、もう一方の物理的に宇宙の空間が拡大している点については、アメリカのエドウィン・ハッブルという天文学者の功績がもっともよく知られています。

ハッブルは「銀河の赤方偏移(せきほうへんい)」やそこから導き出された「ハッブルの法則」で有名な天文学者で、彼が1929年に銀河の移動する速度を調べてみると、ほぼすべての銀河が遠ざかっていることが分かったのです。

なぜ、このことが明らかになったのかというと、銀河の赤方偏移という現象が観察されたからです。

ハッブルがウィルソン山天文台のフッカー望遠鏡を用いて銀河の光のスペクトルの分析をしていたときに、遠い銀河であればあるほど、その光が赤い波長の方にズレているということを発見しました。

「赤方偏移」とは、この光の波長が赤い方にズレていることをあらわす言葉なのですが、これは「光のドップラー効果」とよばれる現象から生じているものです。

このドップラー効果については私たちも日常的に経験することがあり、たとえば救急車のサイレンの音が遠ざかっていくとそれが低く聞こえるという事例が挙げられます。

救急車のサイレンが遠ざかるとなぜかその音が低くなるように聞こえると思いますが、それは音源が遠ざかるにつれて音の波長が相対的に長くなるためにその音波が引き伸ばされて低く聞こえるのです。

それと同じ現象が光でも生じるというのが光のドップラー効果で、光も波長なのでその光源が遠ざかると波長が長くなる方、すなわち同じ光でもより赤い色に見えるということをあらわしているのです。

この赤方偏移とは逆の「青方偏移」(せいほうへんい)という現象もあり、これは光源が観測している私たちに近づいている場合にその光のスペクトルが短い方=青い方にズレる現象をあらわしています。

それで、ハッブルが数多くの銀河から発せられている光のスペクトルを分析した際にその光が赤い方にズレていたということは、私たちのいる地球から見てそれらの銀河がすべて遠ざかっていることをあらわしているわけです。

なお、宇宙のほとんどの銀河は赤方偏移が観測されるために私たちから離れていっているのですが、アンドロメダ銀河については青方偏移が観測されているため、私たちの銀河に近づいていることが明らかになっています。

さて、そのようにして銀河の動く速さを測定していたハッブルは、遠い銀河であればあるほどその遠ざかる速度が速いということを発見し、銀河の遠ざかるスピードは地球からその銀河までの距離に比例しているという「ハッブルの法則」を見出したのです。

みなさんも、「宇宙はビッグバンで生まれて拡大している」という話を耳にしたことがあると思いますが、このビッグバン宇宙論はまさにハッブルが銀河の動く速度を観測したことから導き出されたものなのです。

現在、宇宙の年齢は137億年と推定されていますが、これはハッブルの法則におけるハッブル定数の逆数から導き出された数値になっています。

ただ、この137億年という数値も銀河の互いに遠ざかるスピードがこれまでに変化していないことが前提ですし、今後、観測技術がさらに発展することで銀河についての新たな現象や事実が観測されるとハッブル定数にもまた違う値が入ることもありえます。

そうすると、それにともなって宇宙の年齢が変化してしまうことも充分に考えられる話なのです。

宇宙の中心を考える

さて、宇宙が膨張していると聞くと、私たちはつい「では、その中心はどこにあるのか?」という疑問を抱いてしまいます。

これについては、たしかに理論としてはこれまでもいろいろと考えられてきたのですが、いまだにそれを観測するための技術がないためにはっきりとしたことが言えないというのが正直なところです。

また、1970年代以降になると、宇宙がビッグバンとよばれる大爆発によって生まれた後、宇宙空間は拡大し続けているというビッグバン理論でも説明できない現象やその矛盾点も明らかになってきたのです。

現在では、ビッグバン以後の矛盾点を説明するための「インフレーション理論」というものも考えられていますが、さまざまな前提やそのための仮説にもとづいた部分もありますので、今後もさらなる検証が必要とされるところです。

とはいえ、今回のテーマで取り上げたように、宇宙に関する理論的な仮説・考察と観測技術の発達、それによって発見された新たな現象が組み合わせられることで私たち人間の宇宙に対する捉え方とその世界が広がってきたことは疑いようのない事実です。

そのモチベーションを支えるものは、ひとえに私たちが宇宙という未知なるものに対する飽くなき探究心とそれをこの目で見てみたいという知的好奇心のなせる業だといえるでしょう。