はじめに――私が川で砂金を見つけるまでの経緯

今でこそ、私は日本全国の河川で砂金が採れることを当たり前のように知っていますが、私もこのことを最初から分かっていたわけではありません。

私が川で砂金が採れることを発見したのはもう15年以上も前のことで、川で別の鉱物を採集しようとしてしていたときに、あることがきっかけでそのことを知ったわけです。

川で砂金を採取する方法をお伝えするよりも前に、まずは私の体験談を通じてなぜ砂金が川で取れるのかということについて解説していくことにしましょう。

最初はトパーズを採るだけのつもりが・・・

私が川で砂金が採れることを知ったのは、私の友人である灘高校の地学の教師である野村敏郎先生から「瀬田川(滋賀県)にトパーズを採集しに行こう」と誘われたことがきっかけです。

トパーズは研磨して宝石としての価値もある鉱物の結晶ですが、川のどこでそれが採れるのかというと、川にある岩盤には「ポットホール」(甌穴:おうけつ)という深い穴の空いている部分が存在する場合があり、そこに入り込んでいる土砂の中に川の上流から流されてきたトパーズの結晶が入り込んで溜まっていることがあるのです。

そのため、そのポットホールに入り込んでいる泥や土砂を取り出して選別すればトパーズを採ることができるというわけです。

さて、私は野村先生とともに瀬田川の河川敷に行き、その川の表面に露出している岩盤のポットホールを探しては内部の泥や土砂を取り出し、そこからパンニング皿を使ってトパーズのみを選別するという作業をしていました。

そのときはトパーズを採ることが目的なので、当然、それ以外の泥や土砂は捨てていくという作業を繰り返していました。


ポットホールから見つけたトパーズ

それで、その選別の作業をしているとパンニング皿の底の方に非常に小さな何か黄色い鉱物があることに気づきました。

最初は「何だ、これ?」とまったく気にも留めていなかったのですが、パンニング皿に水を入れて揺らしてみたときに、その黄色い鉱物がほとんど動きを見せなかったのを見て、地学の教師である私はすぐに「あ、これは、もしかしたら砂金かもしれない!?」という考えに思い至ったわけです。


瀬田川で見つけた砂金

これはどういうことかというと、鉱物の比重(密度)の話なのです。

川の泥や土砂の中には石以外にも砂鉄が含まれていることが多く、トパーズを選別するときには自然とパンニング皿の底にその砂鉄が溜まるのですが、パンニング皿に水を入れて揺らしたときに石や砂鉄は水の中ですぐに動くのに対して、その黄色い鉱物が動きを見せなかったということは、それが石や砂鉄(鉄)よりも比重(密度)の大きい鉱物でできていることを示しているのです。

ここで、比重(密度)というのは、1cm3あたりにどれほどの重さ(g)があるのかを示す数値で、当然それが大きければ大きいほどより重たい鉱物であることをあらわしています。

以下に、いくつか代表的な鉱物のおおよその密度を掲載しておきます。

鉱物 密度(g/cm3
白金 21.45
19.32
11.30
10.50
8.95
7.90

具体的な数値を比較すると、鉄の比重が約7.90(g/cm3)であるのに対して金は約19.32(g/cm3)ですので、実に3倍ほどの比重の違いがあり、それが先ほどの水の中での鉱物の動きの違いにつながっているわけです。

このことに気づいた私は、すぐに「野村先生、これ、砂金かもしれないよ!?」と報告すると、同じ地学教師である野村先生に見てもらってもやはり砂金であることは間違いないという結論に達し、もはやトパーズそっちのけで「何で川で砂金が採れるんだろう?」という話をすることになったのです。

そして砂金探しの旅が始まる・・・

野村先生と一緒に川でなぜ砂金が採れるのかについていろいろと仮説を立てながら検証してみると、いくつかの条件が浮かび上がってきました。

まず、私たちがトパーズを探していたのは川の表面に露出している基盤岩とよばれる岩盤のポットホールで、その穴の底にある土砂を取り除いて、その土砂を選別している中から砂金が出てきました。

そのため、岩盤の底にある泥や土砂の中に砂金が眠っている可能性が考えられます。

次に、金は比重が大きいので、ちょっとやそっとの水の流れでは流されにくい上に、他の鉱物よりも下の方、すなわち川の底のより深いところに入り込んで溜まっていく傾向があることが分かります。

そうなると、砂金が出そうな場所の候補としては川で岩盤が出ている場所が挙げられ、その中でも岩盤に細かい割れ目があって、その底にある土砂の中がポイントとなるわけです。

それで、私たちが砂金を見つけてからというもの、暇を見つけては身の回りの河川の中で上記の条件に合いそうなところを調査しに出かけ、その仮説が正しいかどうかを検証していきました。

そのかたわら、パンニング皿や砂金採集のための道具を揃えたり、砂金と日本の河川との関係についての日本全国での状況やデータ、資料を野村先生とともに収集したりしていきました。

また、私たち以外にも日本全国の河川で実際に砂金を採取している人びとと交流を重ねながら砂金や金に関する情報交換を行っていきました。

そのような調査活動の結果、砂金の大小はともかく、日本全国の多くの河川では条件に合致するところであれば砂金が出てくるということが判明したのです。

かつて日本に来訪した稀代の冒険家マルコ・ポーロが『東方見聞録』を執筆した際、日本を「黄金の国ジパング」として紹介したことは大変有名な話です。

現代に生きる私たちからするとそのことについての実感はほとんど持ち合わせていないわけですが、私と野村先生が一緒に調査を行う中で、黄金の国とは日本のどこの川でも探せば砂金が出てくるというまさにこのことを指していたのではないかを私たちは実感してきたわけです。

調査結果の公表とマス・メディアの取材

以上のような事実がおおよそ判明してから、これは学術的にも非常に価値のある研究ということで、私は野村先生とともに2001年7月9日(月)に開催された「兵庫県地学会」の研究集会において「兵庫県南部に産出する砂金」というテーマで発表を行いました。

また、野村先生は小野市の加古川で砂金が採れることから一般の方に向けた砂金掘りのための教室を開催しており、それがきっかけで新聞やテレビなどのマス・メディアなどに取り上げられたこともありました。

たとえば、2003年6月16日(月)の神戸新聞に掲載された「“砂金掘り師”の穴場に 小野市の加古川」という記事では、実際に砂金を採集している様子が伝えられています。

以上、振り返ってきたように、私も最初から砂金掘りをしようと考えて砂金の採集を行ってきたわけではありません。

ただ、私が瀬田川でトパーズを採集する過程でパンニング皿というものをはじめて手にして、分からないなりにもそれを見よう見まねで使ってみたときに、たまたま砂金との出会いが訪れたのです。

その際、もし、私たちが地学や鉱物に関する知識を持ち合わせていなければ、そのほんの小さな黄色いかけらが砂金であると気づくことはなかったと思います。

そのような身の回りのほんの小さな気づきが川に砂金が存在していることへの疑問につながり、まさにこのことが砂金採集の魅力に取り憑かれた私の出発点となっているのです。