金のなりたち――マグマと熱鉱床とのつながり

金といえば高価な貴金属というイメージが想起されるため、私たちからすると何か縁遠い存在のように思われがちです。

しかし、金という鉱物は電気伝導性が高く、化合物を作らず腐食しにくいという耐久性にも優れていることから、パソコンやスマートフォンなどの電子機器の基板に広く用いられており、実は私たちは知らず知らずのうちに金に囲まれて生活をしているのです。

今回は、このように私たちの身近な存在である金という鉱物がそもそもどのようにしてできているのかについて考えてみましょう。

金の鉱床・鉱脈ができるまで

金という鉱物は、金の粒子を含む岩石を採掘し、それを精錬して取り出されています。

この金の粒子が岩石の中にできるためには、「マグマ」と地下にある「熱水」という存在が必要不可欠です。

まず、マグマ(溶岩)は大陸の地下にあるマントルの一部が高温によって溶け出したものですが、このマグマは地表の近くまでに上昇してくると火山を形成します。

火山の地下に存在するマグマは高温であるため周囲の地層に含まれる地下水を温めていき、そこから水の循環が生まれてきます。

このマグマによって温められた水が熱水とよばれるもので、そこにマグマから分離した金の粒子が紛れ込んでいきます。

次に、マグマの科学的組成としてはケイ素(SiO2)というガラスの成分がもっとも多く含まれており、熱水にはこのケイ素と金の粒子が含まれていきます。

この熱水の中に含まれるケイ素は冷えて固まると「石英」という岩石の成分に変化するため、この石英の部分に金が入り込んでいくことになります。

このことから、金の粒子は石英のかたまり、すなわち石英脈に含まれることになり、それが金の鉱床を形成していきます。

このような金の鉱床を多く含む地層(鉱脈)がいわゆる「金山」とよばれる場所として開発されることになり、その石英脈を採掘することによって金が取れるということになるわけです。

さて、以上のような金の鉱床ができるまでのプロセスを考えてみると、金を探し出すための手がかりというものが見えてきます。

金は石英脈に含まれていますので、当然、石英を多く含む岩石に注目する必要があります。

こちらの「マグマから生まれる岩石――火山岩と深成岩」のページでも触れていますが、石英(ケイ素)がもっとも多く含まれている火成岩としては「流紋岩」と「花こう岩」が挙げられます。

このうち、より地表に近いところでできる火成岩は、火山岩に区分される流紋岩ですので、この流紋岩の岩体と金は近しい関係にあると考えることができます。

また、金の粒子から金の鉱床ができあがるまでにはマグマと熱水という存在が不可欠であることから、その周辺では温泉や間欠泉といったものの存在が関わってくることになります。

以上のことから、日本各地のさまざまな場所において数多く存在する河川の中から私が砂金のポイントを見極める際には、その河川の周囲の地質が流紋岩に由来するものであることや、その周辺に温泉などが存在するかなどを手がかりとしているのです。

金を精錬する

私たちの身の回りで用いられている金は、金山において金の粒子を含む石英脈を採掘したものからできています。

ただ、金山で採掘される石英脈には金が含まれているとはいうものの、それは金のかたまりとして肉眼で見て物理的に分離できるようなものではなく、その岩石から金の粒子のみを選別して取り出す作業、すなわち「精錬」が必要となります。

以下の写真は金の粒子がわずかに含まれている石英脈の岩石で、実際の金の鉱床にある石英脈ではこのような石英の中、特に黒い筋が入っている部分に金の粒子が含まれており、この鉱石を採掘・精錬することによって金を作り出していくことになります。


石英脈を含む岩石

さて、実際に金を精錬するためには、それ以前に金以外の重金属をそこから取り出すという作業が必要となります。

石英脈には金以外にも鉄や銀、銅、鉛などの重金属が含まれていることがほとんどですが、金は化合物を作らないという性質があるため、そこから金の粒子のみを選択的に取り出すことは容易ではありません。

そのため、まずは岩石を砕いて熱して液体化させた後にそこから電気分解によって金以外の重金属類を回収していき、そこで残ったスライム(沈殿物)に対して化学的な溶媒抽出法を用いて金を取り出すという工程を経る必要があるのです。

精錬の詳細については、こちらの一般社団法人日本金地金流通協会「金地金のできるまで」のページを参照してください。

以上のように、私たち人間が金を手にするためには鉱石から粒子を人工的に分離する精錬という作業が求められるわけですが、その一方で、私が実際に川で採っている砂金は肉眼でも見えるものですし、ピンセットや指で触れるぐらいの大きさとなっています。

これは石英脈に含まれている金の粒子が雨や水の侵食を受けて川に流され、基盤岩の隙間に入り込んで滞留した金の粒子同士が結合し、非常に長い時間をかけてその大きさに成長していったということをあらわしています。

日本の多くの河川では、探すポイントさえ間違えなければ砂金が目に見える形で普通に採れてしまうわけですが、このような砂金がその形になるまでには何万年という気の遠くなるほどの非常に長い年月が必要ということが分かって頂けるのではないかと思います。

菱刈金山――日本が誇る世界最大の金山

日本で金山といえば、佐渡島にある「佐渡金山」が歴史的にも有名ですが、現在は鹿児島県で住友金属鉱山株式会社が採掘を行っている「菱刈(ひしかり)金山」が世界最大の金山となっています。

ここは1985年(昭和60年)あたりから採掘が開始された金山で、その鉱石に含まれる金の含有率が非常に高いことで知られています。

金山では、世界的に見ても鉱石1トンあたり3gの金が含まれているものが平均とされているのに対して、この菱刈金山ではそれが1トンあたり30~40gにものぼります。

また、先にも説明したように、石英脈に含まれる金の粒子は目に見えないことが普通なのですが、この菱刈金山における鉱石は肉眼で金が含まれている様子が見えるというレベルのものです。

菱刈金山の詳細については、こちらの住友金属鉱山株式会社のサイトに掲載されている「菱刈金山のココがすごい!」のページをご参照ください。

なお、この非常に高い金の含有率を誇る菱刈金山の周囲にも河川が広がっています。

当然ながら、その河川にも多量の金の粒子が流れ込んでいることも考えられますので、砂金を見つけることについても大きな期待ができるといえるでしょう。