砂金の調査記録(2)――兵庫県神崎郡神河町

日本においてどの川で砂金が採れるのかという本研究所のフィールドワークの調査報告です。

今回は、兵庫県の南西部を流れる「市川」(いちかわ)とその上流に位置する「生野(いくの)銀山」までの範囲で砂金の産出状況を調査しました。

兵庫県神崎郡神河町の砂金

兵庫県の市川は国道312号線と並行して南北に流れており、下流域には姫路市が位置しています。

この市川についてはこれまでも何度か調査に訪れていて、その中流域にあたる福崎市周辺では0.1~0.2mmというとても小さい粉末のような砂金を採集してきました。

今回は、そこからさらに上流にさかのぼり、兵庫県神崎郡神河町の周辺でどれくらいの大きさの砂金が出るのかという調査を行いました。

具体的な砂金の採集ポイントとしては、JR播但線・長谷駅の北部に位置する場所となります。

以下の写真のように、この場所には上流から流されてきた大小さまざまな岩石が数多くあり、それに紛れるような形で基盤岩を見つけることができます。



兵庫県神崎郡神河町の市川上流域

この場所にある基盤岩は上流の方向に対して傾斜したものが数多く見られるため、砂金が溜まりやすいポイントとして考えることができます。



兵庫県神崎郡神河町の市川上流域の基盤岩

早速、この基盤岩の裏側にある水草を集めて水で洗浄する「草の根引き」を行いました。



基盤岩の裏側の水草を集める

この場所に生えている水草の特徴として、根っこの部分に集まっている土砂がかなり固結しており、手でほぐすことが非常に難しいことが挙げられます。

その理由としては、水草が生えてから長い年月が経過しており、その間、この場所で砂金採りをするような人がほとんどいなかったと推測されます。

ただ、その分だけ砂金の溜まる場所になっているとも考えられるため、砂金が成長していることが期待できるポイントだといえるでしょう。

実際、草の根引きをしたところ、以下のような1mm程度の大きさの砂金をいくつか手に入れることができました。

以前、私が中流域で採集したものよりも大きな砂金を採ることができましたので、このポイントは砂金の寄せ場のようなところだと考えられます。

なお、この神河町の市川の河川敷には大小さまざまな岩石が非常に多く集まっているため、砂金を採集するためにその間を縫って歩くときには足を滑らせないように十分に気をつける必要があります。

砂金の供給源と大きさとの関係

本サイトでも何度かお伝えしているとおり、砂金は鉱山とも深いつながりがあります。

特に、この市川のさらに上流には銀の産出で有名な「生野(いくの)銀山」が存在しています。

現在、この生野銀山は操業していませんが、その周辺の山々で侵食された砂金の粒子が下流に流されて市川で砂金になっていると考えられます。

そこで今回は、この市川の上流にある生野銀山に向けてさかのぼり、基盤岩が露出している場所の検証を行いました。

上流にさかのぼっていくといくつかの砂金が採れそうなポイントが点在していますが、基盤岩が出ていて河川敷に入りやすいところとしては、兵庫県朝来市にある兵庫県立生野高等学校の裏手の河原が挙げられます。

この生野高校の裏側には、以下の写真のような基盤岩やその上に生えている植物などを見つけることができます。




生野高校の裏手の河川敷と基盤岩

今回はこの場所の基盤岩の砂金調査は行っていないのですが、かつて私の友人の灘高校の野村敏郎先生がこの場所を調べたところ、2mm程度の砂金を手に入れることができたとのことでした。

私自身は、この場所よりもさらに上流の生野銀山のすぐ近辺の河川で砂金の調査を行ったことがあり、そのときには砂金を採集することができたものの、市川中流域と同様の0.1~0.2mm程度の大きさでした。

実は、供給源としての鉱山からの距離と下流に流出した砂金の大きさにはある程度の傾向が見られ、砂金は供給源から4~5kmの範囲にある河川の中でもっとも大きく成長するといわれています。

この4~5kmよりも上流側では砂金の粒子が集まりきらないために成長せず、逆にそこよりも下流側になると成長した砂金が流されるたびに水流などで削られて小さくなってしまうという理屈です。

ここで、これまで市川で採集してきた砂金の場所とその大きさとの関係について振り返ってみると、以下のようになります。

砂金の採集ポイント 生野銀山からの距離 サイズ
生野銀山 周辺 1 ~ 2 km 0.1 ~ 0.2 mm
生野高校 裏手 4 ~ 5 km 2 mm前後
市川 上流域(神河町) 15 km前後 1 mm前後
市川 中流域 20 km以上 0.1 ~ 0.2mm

私が生野銀山にほど近い河川で調べたときには0.1~0.2mmサイズの砂金が採集でき、今回調査した市川の上流域にある神河町では1mm程度のサイズの砂金を採ることができました。

それよりも下流域になってくると、砂金のサイズは再び0.1~0.2mmの大きさになっており、やはり砂金の供給源からの距離が離れすぎてしまうとそれぐらいの細かいサイズになってしまうようです。

しかし、生野銀山から5km前後の距離に位置する生野高校の河原では2mm程度の砂金が見つかっていることから、以上のさまざまな調査結果から考えると、ここから少し下流域までの場所が成長した砂金を採集できる可能性のあるポイントだと考えられます。

砂金を採ることから見える風景

今回は、兵庫県の市川の砂金について、その上流域にある生野銀山との関係から神河町での調査を行いました。

川で砂金を採る場合、山の奥深くにある鉱山のイメージも手伝って、川の上流であればあるほど大きな砂金が採れそうに思いがちです。

しかし、今回のように市川水系の置かれた環境や砂金の採れる状況を突き合わせて検証してみると、むしろ町中にある高等学校の裏手に流れている川こそが砂金の集まるポイントになっているという推論が成り立つこともあります。

砂金を採る際には、そこで得られた砂金からそれがどこから来たものなのか、どこにそれが集まっているのかなど、いわば砂金という物的な証拠をもとにさまざまな仮説を立ててそれを検証する作業がともないます。

砂金の場所を探ることをとおしてそれまでの自分が見えていた風景がまったく違ったものに映ってくることも、砂金を採ることの魅力のひとつだといえるでしょう。