回転楕円体としての地球――タテ長かヨコ長か?

地球はキレイな球体ではなく、自転という遠心力がはたらいているために赤道方向に膨らんだヨコに長い回転楕円体として捉えられます。

しかし、今でこそ地球はヨコ長の楕円の形をしていることが理解されていますが、かつては地球の楕円体がタテ長なのか、それともヨコ長なのかが論争されている時代が存在していました。

今回は、地球がどんな形をしていて、それを当時の人びとがどのような形で決着をつけたのかというエピソードについてご紹介します。

回転楕円体の2つの形――タテ長vs.ヨコ長

まず、地球は丸い形をしているものの、完全な球体というわけではありません。

人びとがこのことに気づいたのは17世紀頃のことで、当時使われていた「振り子時計」が地球の場所によって遅れが生じる現象が発見されたことに端を発しています。

たとえば、フランスのパリ(北緯49°)で正確に動く振り子時計が、赤道付近のギアナ(北緯5°)では2分近くも遅れたということが報告されています。

振り子時計はおもりが揺れることによって時を刻むわけですが、当然ながらそのおもりに何らかの力がはたらけば、時計は正確に動きません。

具体的には、振り子時計のおもりに対して重力が小さければ動きが遅くなるので、時計には遅れが生じてきます。

そのため、おもりにはたらく重力が地球の場所によって異なっていることで、時計が正確に動かないのではないかと当時の学者たちは考えたわけです。

それで、その重力が異なっていることの原因ですが、イギリスのアイザック・ニュートンは地球が回転していることの影響が関係しているのではないかと考えて詳しく計測したところ、その回転の力だけでは重力にそれほど影響がないことが判明しました。

そこで、彼は地球が自転することによって赤道方向に膨らんだ楕円体の形をしており、赤道付近で生じる遠心力が重力を弱めているという考え方で説明しようとしました。

このことに対して、フランスの天文学者ジャック・カッシーニが独自の測量結果から地球はタテ型の回転楕円体であるという理論を打ち立て、当時、地球の形をめぐって「地球はレモン(タテ長)かオレンジ(ヨコ長)か?」という国際的論争にまで発展したのです。


地球はタテ長かヨコ長か?

緯度の調査と論争の決着

この国際的な論争は、18世紀になってフランスの科学アカデミーの調査隊の10年近くにもおよぶ測定結果からようやく決着を見ることになります。

結果としては、すでに明らかなように、地球はニュートンの提唱したような赤道方向に膨らんだ回転楕円体だったというわけです。

それで、どのようなことを用いてこの結論に達したのかというと、極付近のある地点Aと赤道付近の地点Bにおけるそれぞれの南北の緯度差1°とその距離を測定し、そのどちらが長いのかを比較することで、地球がタテとヨコのどちらに長いのかを割り出したのです。

当時、極付近の測量地としてスカンジナビア半島のラップランド、赤道付近の測量地としてエクアドルでそれぞれの緯度差1°の距離を測量しました。

具体的には以下のような測量の結果から地球がヨコ長の楕円体であることを証明したわけです。

上図において、Aの地点が極付近のラップランド、Bの地点が赤道付近のエクアドルとして見てもらうと、同じ緯度差1°であってもAの距離の方が長く、Bの距離の方が短いという測定結果が出たことから、地球はヨコに長い楕円体であるという結論が導き出されたのです。

ここで、上の図に示した地球上の緯度差1°というものが奇異に感じられる人もいると思います。

すなわち、楕円における1°というものは、以下のようなものを指すのではないかということです。

確かに、数学的に考えた場合の楕円体の角度の1°というものは、上の図のように考えられ、そうなるとAとBの長さの差が逆の結果になってしまいます。

実はこの疑問は、私が学校の授業で回転楕円体の説明をしているときに、それを見ていた物理の先生から「板村先生、楕円の長さの違いからヨコ長の楕円体だったことが分かったという話でしたが、実際に楕円の同じ角度の長さの違いを出してみると、こんな風に極付近の方が長くなるので逆の結果になりませんか?」という指摘で出てきたものです。

ここはよく混乱しやすいところで、実は同じ「緯度」というものにも、球体の中心部から考える「地心緯度」というものと、実際に地球上のその場所の地表面からの鉛直方向、すなわち角度90°と赤道面の角度を基準とする「天文緯度」という2つがあるのです。

この天文緯度の場合、地表面から真下に垂線を下ろしていくと、上に挙げた《天文緯度差1°の測定と比較》の図のように、いわゆる楕円の中心部からはまったくズレたところで角度の1°が形成されることになります。

私たちが生活しているのは地球上の地表面であり、そこを基準とした緯度の差を出した上で距離の違いを比較する必要があるために、天文緯度というものを測量することが求められたわけです。

フランスの科学アカデミーの測量隊がこの天文緯度を算出するときには天体の位置を基準としており、その緯度と地表面上における距離とを正確に出すためにはかなりの長い時間と大変な労力が必要となります。

緯度の調査に10年近くもの歳月が必要とされた理由には、このような背景があったわけです。

なお、フランスの科学アカデミーは、当初、自国の天文学者のカッシーニの主張を裏付けるために調査隊を派遣したのですが、調べれば調べるほど逆にイギリスのニュートンの説を証明することにつながってしまったという皮肉な逸話も残っています。

  1. ← 前へ
  2. ↑ メニューに戻る
  3. 次へ →
コンテンツ・メニュー
地学 = 地球科学の世界
センター試験対策「地学基礎」
地学コラム -地学のこぼれ話
地学動画セミナー
目指せ! 砂金ハンター
板村地質写真館
運営者情報
管理者:板村 英明
インフォメーション
当サイトご利用上の注意
質問・お問い合わせ
お問い合わせフォーム